神の火〈上〉 (新潮文庫)

神の火〈上〉 (新潮文庫)

神の火〈下〉 (新潮文庫)

神の火〈下〉 (新潮文庫)

第一級の原子力技術者でありながら、共産圏のスパイだった島田浩二。

闇の世界から足を洗い、大阪の小さな個人会社で細々と暮らしていたが、

自分をスパイに育てた怪紳士の江口、幼馴染みで一匹狼やくざの日野、

そして、ロシア人でありながら日本名を持つ脱走したテロリストの良。

いくつもの再会と出会いは島田を再び、

CIAに北朝鮮、永田町まで絡んだ謀略の世界に引きずり込む。

原子力と一人のテロリストをめぐる謀略小説だが、

一皮むけば、島田をめぐる男たちの嫉妬と恋愛の物語ともいえる。

良に魅せられた島田、島田を手塩にかけた江口、島田の最大の理解者である日野…。

筆致は高村薫らしくきわめて冷静だが、

男たちの思いがむせかえるようににじみ出てくる過程は圧巻。

最後に島田と日野はある大計画に挑むが、

それに至るまでの絶望感がたまらない。

陰謀と絶望、そして情熱がたっぷりつまった大傑作。

何回読んでも面白い。